So-net無料ブログ作成
検索選択

 RSSリーダーで購読するブックマークに追加する

カワセミについて [博物誌]

よだかは、あの美しいかわせみや、鳥の中の宝石のような蜂すずめの兄さんでした。蜂すずめは花の蜜をたべ、かわせみはお魚を食べ、夜だかは羽虫をとってたべるのでした。 
                                      (宮沢賢治『よだかの星』)


カワセミは、狭義にはブッポウソウ目カワセミ科の1種、広義にはカワセミ科の鳥の総称である。漢字では、翡翠、川蝉、魚狗などとも書く。青緑色の美しい鳥で、宝石の翡翠(ひすい)という名前は、カワセミの色に由来すると言う。

カワセミ
「カワセミ」 ジョン・グールドアジア鳥類図譜』

カワセミは、約90種類が世界中に分布しており、日本には、カワセミ、ヤマセミ、アカショウビンの3種類が棲んでいる。またヤマショウビンとナンヨウショウビンは、迷鳥として渡来することもあるという。(辞典によっては、ミヤコショウビンを含めるものもある。)

ヤマセミアカショウビン
「ヤマセミ」(左) 「アカショウビン」(右)  Copyright (C) Hideo TANI All rights reserved.

これらの鳥は、シーボルトの『日本動物誌』にも載っている。残念ながら『シーボルト日本鳥類図譜 』は絶版状態であるが、嬉しいことに、京都大学電子図書館では、シーボルト『日本動物誌』を公開している。

【京都大学電子図書館 『日本動物誌 Fauna Japonica』】
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/b05/b05cont.html

また、玉川大学が所蔵しているグールド『グールド鳥類図譜』では、『ヨーロッパ鳥類図譜』や『アジア鳥類図譜』などにカワセミが登場する。

【グールド『グールド鳥類図譜』(玉川大学蔵)】
http://j-gould.tamagawa.jp/top.html

玉川大学蔵本は、僕が持っている画像より鮮やかで美しいのだが、サイズが小さいのが玉にきずである。できるなら、もっと大きな画像で公開して欲しいものである。

シロボシショウビン
「シロボシショウビン」 ジョン・グールド『アジア鳥類図譜』

カワセミと言えば、オウィディウスの『変身物語』で語られるアルキュオネ(またはハルキュオネ)の物語が有名である。アルキュオネとケユクスは、仲の良い夫婦であった。しかし、夫ケユクスは海難にあい命を落としてしまう。ある朝、アルキュオネが、夫を見送った浜辺に行くと、波に運ばれてきた彼の死体を見つける。

 「あなた、お可哀そうに!こんな姿で、こんな姿で、わたしのところへおもどりになったの?」
 水ぎわに、人工の防波堤があって、打ち寄せる波の出鼻をくじき、水の攻勢を強めている。アルキュオネは、ここへ跳び乗った。そんなことができたのが、不思議だった。いや、じつは、彼女は宙を飛んでいたのだ。たったいま生えた翼で、軽やかな大気を打ちながら、海面をかすめ飛んでいる──そのあわれな鳥が彼女だったのだ。飛びながら、口に代わる細長い嘴から、いかにも悲しげな、嘆きにみちた鳴き声を発している。

                        (オウィディウスの『変身物語』 巻十一)

二人に同情した神々は、ケユクスも鳥に生まれ変わらせた。この鳥が、カワセミだという。

ハーバート・ドレイパー『ハルキュオネ(アルキュオネ)』
ハーバート・ドレイパー『ハルキュオネ(アルキュオネ)』 クッリクで拡大

ハーバート・ドレイパーの絵では、中央上部のやや右側に、カワセミに変身したアルキュオネとケユクスの姿が描かれている。

ミランダ=ブルース・ミットフォードの『サイン・シンボル事典』には、カワセミに関する面白い伝説が載っている。ノアの大洪水の後、カワセミは、空高くどこまでもどこまでも飛んでいった。高度を上げ太陽に近づきすぎたので、カワセミの胸は赤く焦げてしまった。それと同時に、背中は青い空の色に染まったという。

カワセミ
「カワセミ」  Copyright (C) Hideo TANI All rights reserved.

最後に、宮沢賢治の『やまなし』を引用しておく。『やまなし』は、蟹の子供を主人公とした「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈」である。川底から魚を眺めていた蟹たちの前に、突然、カワセミは姿をあらわす。

 その時です。俄に天井に白い泡がたって、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾のようなものが、いきなり飛込んで来ました。
 兄さんの蟹ははっきりとその青いもののさきがコンパスのように黒く尖っているのも見ました。と思ううちに、魚の白い腹がぎらっと光って一ぺんひるがえり、上の方へのぼったようでしたが、それっきりもう青いものも魚のかたちも見えず光の黄金の網はゆらゆらゆれ、泡はつぶつぶ流れました。
 二疋はまるで声も出ず居すくまってしまいました。

                                (宮沢賢治『やまなし』)

カワセミが、魚を獲る瞬間を目撃した蟹の子ども達は怯えてしまう。「クラムボンは死んだよ。」などと無邪気に死と戯れていいた子供たちが、初めて接した本物の死なのである。あの美しいカワセミが死の象徴として使われているというのは、興味深い。

やまなし (画本宮沢賢治)

やまなし (画本宮沢賢治)

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: パロル舎
  • 発売日: 1985/07
  • メディア: 大型本

【関連記事】
極楽鳥について
ハチドリについて
『ジョン・グールド 世界の鳥―鳥図譜ベストコレクション』

【引用・参考文献】
『世界大百科事典』 平凡社
『スーパー・ニッポニカ』 小学館
宮沢賢治『新編銀河鉄道の夜』 新潮文庫

オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)

  • 作者: オウィディウス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1984/02/16
  • メディア: 文庫
サイン・シンボル事典

サイン・シンボル事典

  • 作者: ミランダ ブルース‐ミットフォード
  • 出版社/メーカー: 三省堂
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 大型本

*カワセミの写真は、鳥遍路写真館さんのご好意で使用させていただきました。

ブログパーツ 
nice!(24)  コメント(22)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 24

コメント 22

yoku

私も一ヶ月前に近くの雑木林を歩いているときに
目撃しました。普通の川だったら何とも思わなかった
でしょうが、それが神秘的な湧き水の池あるいは
泉での出会だったのです。感動しました(一緒に白サギもいました)
本当に美しい鳥ですね。やはりこういうときには、舞台装置も
大切ですね。
by yoku (2009-03-10 20:38) 

SilverMac

四万十川にはいるようですが、高知市内では見かけません。
by SilverMac (2009-03-10 21:37) 

tanuki

翡翠、まさにカワセミにふさわしい漢字ですね(^^)
『アルキュオネ』の絵、素敵です。自分もカワセミになりたくなります(笑)
「やまなし」は、小学生の時に国語の授業で習って以来、大好きな物語です。映像が脳裏にイメージされて、自分が映像作家だったら思う存分透明な青い美しい世界を表現できるのにな~、なんて思います。(^^)


by tanuki (2009-03-10 22:55) 

moe

lapisさん こんばんは。
東京練馬区の石神井公園にもカワセミがいたりするのです。
by moe (2009-03-10 23:44) 

HAL

カワセミの撮影に行きたいーーーー!!
by HAL (2009-03-10 23:48) 

lyra

素敵な写真と絵の数々、楽しく拝読しました。アト・ド・フリースの『イメージ・シンボル事典』(大修館書店)の「カワセミ」の項目にもオウィディウス『変身物語』は出てきますが、それと別に次のような記述もあります。「カワセミはおしどり夫婦であり、いつも対になって飛ぶ。雌は夫が死ぬとその死骸を背負い、悲しげに鳴きながら海を渡って飛んで行く。彼らは繁殖期だけともに住むのではなく、1年中ともに暮す」。死骸を背負って空を飛ぶ姿が果たして本当なのか知りませんが、イメージとしては『変身物語』の夫婦愛にまさに通じます。

この事典の記述の中で、T.S.エリオットの『バーント・ノートン』の一節が紹介されていて、ぼくにはそれが印象的でした。作品の翻訳が手元にないので、散文的な訳ですが事典の訳を引用しておきます。

After the kingfisher's wing
Has answered light to light, and is silent, the light is still
At the still point of the turning world.

カワセミの羽根が光によって光に答え、静まりかえったあと、光はまだまわる世界の中心にじっと静止している
by lyra (2009-03-11 02:17) 

柴犬陸

カワセミが翡翠につながるとは思ってもいませんでした。
翡翠といえば、新潟の糸魚川ですね。(微笑)
by 柴犬陸 (2009-03-11 09:52) 

春分

ある意味身近な鳥となってしまって、あまり考えることもなくなっていましたが、いくつかの逸話と美しい近縁種の写真に心躍る思いです。
やはりlapisさんはすごい。
何か神秘の色のなせる技か、悲しみや死の面影が寄り添うものなのかと納得させられましたが、大写しできる今日ではやや大きすぎる嘴や思い詰めたような眼故に私はそんなイメージは持てませんでした。望遠レンズの功罪ですかね。
by 春分 (2009-03-11 12:02) 

遊行七恵

こんにちは
翡翠(かわせみ、と打ってすぐにこの字に変換されました)。
本当に綺麗ですね。
しかしわたしは鳥類がニガテなので実物を見た記憶がないのです。
見ていても意識の外で見ているようです。
観念的には鳥も海も好きなのですが。

よだかの星はせつない物語でしたが、最近「宮沢賢治は近未来を予測していた」説の中でこの作品が取り上げられていて、ちょっと「うーん」でした。

by 遊行七恵 (2009-03-11 12:47) 

lapis

>yokuさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>それが神秘的な湧き水の池あるいは泉での出会だったのです。
それは素晴らしいですね!
もともと美しい鳥ですが、美しい風景のなかで出会うと、さらに印象的になると思います。
この間、車を運転していたら、目の前を青い閃光が駆け抜けていきました。完全に視界から消えた時点で、カワセミだと気がつきました。ちょっと不粋な出会いでした。(苦笑)

>takemoviesさん、nice!ありがとうございます。

>SilverMacさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>四万十川にはいるようですが、高知市内では見かけません。
カワセミの青緑の色は、四万十川には映えるでしょうね。
高知は未踏の地なので、機会があったら訪れてみたいと思っています。

>eccoさん、nice!ありがとうございます。

>tanukiさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
仰るとおり、翡翠という漢字は、カワセミにピッタリですね。
ドレイパーの絵は、色鮮やかでとても綺麗です。
>自分もカワセミになりたくなります(笑)
tanukiさん夫妻は、まるでアルキュオネとケユクスのように仲が良いので、カワセミになれるかもしれませんね。(笑)
教科書に載った作品は、どうしても嫌々読むので、イメージが悪くなる場合が多いのですが、『やまなし』と小川未明『野ばら』と中島敦『山月記』は、いまだに大好きな作品です。

>moeさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>東京練馬区の石神井公園にもカワセミがいたりするのです。
カワセミは、意外なところに棲んでいるらしいですね。
でも、身近なところにあの美しい鳥がいると言うことは、素敵なことだと思います。

>HALさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>カワセミの撮影に行きたいーーーー!!
僕も同じです。
何故か、カメラを持っていないときだけ、遭遇します。(苦笑)

>aoyamasijinnさん、nice!ありがとうございます。

>lyraさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
大修館書店の『イメージ・シンボル事典』も面白そうですね。
カワセミはおしどり夫婦というのは、納得です。何で読んだか覚えていないのですが、求愛するときオスが、メスに餌をプレゼントするそうです。
T.S.エリオット『バーント・ノートン』の御紹介、ありがとうございました。
今度読んでみたいと思います。

>柴犬陸さん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>翡翠といえば、新潟の糸魚川ですね。(微笑)
僕も同じ連想をしました。
糸魚川は、ゆっくり遊びに行きたいと思っているのですが、実現していません。地元の場合、いつでもいける気がして、結局行かないということが多いような気がします。(苦笑)

>お茶屋さん、nice!ありがとうございます。

>春分さん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>ある意味身近な鳥となってしまって、
僕の場合、見る機会が圧倒的に少ないので、珍しい鳥という認識があります。
ですから。『やまなし』に出てくる鳥といったイメージの方が強いです。
>望遠レンズの功罪ですかね。
そういう発想は、全くありませんでしたが、言われてみれば、そうかもしれないと思いました。確かに技術が進んだぶん、身近な存在になりましたが、そのぶん神話的要素が失われたかもしれませんね。

>遊行七恵さん、コメント!ありがとうございます。
>しかしわたしは鳥類がニガテなので実物を見た記憶がないのです。
それは意外でした。鳥類は、爬虫類とは違い人気が高いとおもっていました。
でも、恐竜の子孫が鳥類という説もありますから、良くみると不気味かもしれませんね。
>「宮沢賢治は近未来を予測していた」説の中でこの作品が取り上げられていて
宮沢賢治は、人気があるので関連本も多いですが、とんでも本も多いです。なかには大学教授の肩書きがありながら、とんでも本を書いている人までいます。困ったものだと思います。(苦笑)

>takagakiさん、nice!ありがとうございます。
by lapis (2009-03-11 21:04) 

エリザベート

どこかで見かけたらきっと忘れられないでしょうね。。残念ながら・・・まだ見たことがありません。。自然にこんな綺麗な色がある鳥と、カラスのように真っ黒では神様の悪戯としかいいようがないですね^^ ・・つい、童話を思い出しました。。
by エリザベート (2009-03-11 23:10) 

いっぷく

ヒマラヤのふもとのインドで初めてカワセミに出会いました。
鳥の知識がないために世界中にいるとは当時知りませんで、
日がな湖でカワセミの魚をとる姿を眺めておりました。
by いっぷく (2009-03-12 06:09) 

lapis

>エリザベートさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
>どこかで見かけたらきっと忘れられないでしょうね
カワセミは、空飛ぶ宝石と呼ばれていますが、まさにその言葉どおり綺麗な鳥だと思います。
>つい、童話を思い出しました。。
懐かしいですね。題名は覚えていませんが、僕も昔カラスが黒くなった物語の絵本を読んだことがあります。残念ながらその本は手元にありません。

>マイケルさん、nice!ありがとうございます。

>エルティアさん、nice!ありがとうございます。

>nyanさん、nice!ありがとうございます。

>いっぷくさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
ヒマラヤのふもとでご覧になったというのは、風流ですね。
>日がな湖でカワセミの魚をとる姿を眺めておりました。
それはある意味、とても贅沢な時間を過ごされたのだと思います。
僕も、そのような体験をしてみたいものです。

by lapis (2009-03-12 20:22) 

lapis

miyokoさん、nice!ありがとうございます。

by lapis (2009-03-13 19:57) 

lapis

ICE★DOLLさん、nice!ありがとうございます。


by lapis (2009-03-14 00:09) 

lapis

イリスさん、nice!ありがとうございます。

by lapis (2009-03-14 21:36) 

アヨアン・イゴカー

>ハーバート・ドレイパー
水と岩の描写が素晴らしいですね。美しい景色で、こんな場面に遭遇してみたくなります。
>京都大学電子図書館
シーボルトも好いですね。早速、お気に入りに登録させて頂きました。
by アヨアン・イゴカー (2009-03-14 23:17) 

lapis

アヨアン・イゴカーさん、nice!&コメント!ありがとうございます。
ハーバート・ドレイパーは、日本での知名度は今ひとつですが、とても美しい絵を描く画家だと思います。
京都大学電子図書館のように魅力的な資料を公開する大学図書館が増えてくれると嬉しいです。
by lapis (2009-03-15 19:27) 

albireo

カワセミは、家の近くの池でもよく見掛けますが、撮れません・・・。
何時かきっとと、思ってはいるのですが・・・。
「カワセミついて」の記事の最初に、『よだかの星』を引用されたのは流石だと思いました。
実は、僕も「カワセミ」の姿を見掛けると、『よだかの星』のその一節を、ふと思い浮かべることがありますから。
by albireo (2009-03-17 00:01) 

lapis

albireoさん、nice!&コメントありがとうございます。
>何時かきっとと、思ってはいるのですが・・・。
僕もそう思っているのですが、なかなか機会に恵まれません。
『よだかの星』のヨダカとカワセミとハチドリが兄弟という設定は、とても秀逸なものだと思います。あのあたりの賢治のセンスは本当に素晴らしいですね。
カワセミは見たことはあるのですが、ヨダカは見たことがないので、機会があったら見たいと思っています。
by lapis (2009-03-17 20:21) 

sanesasi

近くの川にいると聞いておりましたが 30年来見たことが無かったのですがこのところ 人工池や  湧き水の小さな池で見ることが出来感激しました 田舎道を運転している車の前を さっと横切ったのも 宝石の翡翠色でした カワセミを見た日はなんだかうれしく豊かな気持ちになりました
カワセミのおはなし 楽しみました

by sanesasi (2009-03-19 21:31) 

lapis

sanesasiさん、nice!&コメントありがとうございます。
>運転している車の前を さっと横切ったのも 宝石の翡翠色でした
ぼくもそれとそっくりな出会いをしました。全く予想外の綺麗な青が目の前を横切っていたので、驚きました。カワセミは、カメラが手元にあり、用意万端の時に出会いたい鳥です。
拙記事を楽しんでいただけたようで嬉しいです。
by lapis (2009-03-19 22:47) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。